仙台高等裁判所 昭和50年(ネ)457号 判決 1976年3月31日
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は、次の点を付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(控訴人の主張)
名義貸与者が商法二三条の責任を負うのは、その者の営業の範囲内もしくは同種の営業の範囲内の取引についてのみであつて、本件のように名義貸与を受けた者が営業とは関係のない不法行為に関してなした示談契約に基づく債務については同条の適用はないものというべきである。
(被控訴人の主張)
右主張を争う。
理由
一、当裁判所も、被控訴人らの本訴請求を正当として認容すべきものと認める。その理由は、次の点を付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。
(一) 原判決四枚目裏一一行目に「個有の損害」とあるのを「固有の損害」と訂正する。
(二) 商法二三条所定の名義貸与者の責任は、その者を営業主と誤認して営業に関する取引をなした者に対してのみ認められるものであつて、交通事故のような事実行為たる不法行為を理由とする損害賠償の請求は、右営業に関する取引とはいえないから、名義貸与者はこれについて同条の責任を負うことはありえない。
しかし、名義貸与者と同種の営業活動上惹起した交通事故について不法行為に関する責任のあることを前提として、名義貸与を受けた者が名義貸与者の商号を用いて被害者と示談契約を締結することは、右にいう営業に関する取引にあたるものというべきであり、名義貸与者はその者を営業主と誤認して右契約を締結した者に対して名義貸与を受けた者と連帯して弁済の責に任ずべきである。
原審における証人石川達哉の証言、被控訴人金今寛の本人尋問の結果によると、本件交通事故は控訴会社から営業に関し名義貸与を受けていた大久保行二が営業活動を行うについて惹起されたものと認められるから、原判決認定の事情のもとにおいては、控訴会社は右大久保が控訴会社大東町出張所長名義で締結した本件示談契約につき被控訴人らに対し弁済の責に任ずべきものである。
二、よつて、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、民訴法三八四条、九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。